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トップ>達人紹介コーナー>お酒>第10回 です。

達人紹介コーナー

 真夏の、ノドの渇きを癒す生ビールも美味しいですが、秋から冬に、じっくりと味わうビールもまたオツなものです。この季節だからこそ、もっとビールを愉しんでみませんか?



◇ビールの起源はいつ?

 人々が始めて飲んだ酒は、ワインともビールとも云われています。
 ビールの起源には諸説ありますが、紀元前8000年〜4000年ころまで遡ります。
メソポタミア文明のシュメール人はビールもワインも作っており、また、紀元前3000年頃には、エジプトにビールの製法が伝わったそうです。さらに、アッシリアやバビロニアといった文明遺跡からも、ビールの製造や飲用に関する史実が見つかっており、かの「ハムラビ法典」にはビールに関する法が定められています。

 中世ヨーロッパでは修道院の醸造所がビール造りの大きな役割を果たしていました。当時、修道士や僧侶たちは醸造知識に優れ、上質のビールを造っていたようです。また、この頃のビールはグルート(薬草)を使い、栄養剤や医療にも使われていました。その後、グルートのなかでも特にホップを使ったビールが台頭します。ホップは抗菌作用や独特の芳香、苦味を持ち、これにによってビールの品質は向上したのです。ドイツでは、1516年に「ビール純粋令」が出されており、大麦・ホップ・水の3つの原料以外は使用してはならないと定められました。この純粋令は、ビールという酒を定義し、品質の維持向上に役立ったと云います。


◇ビールの語源は?
 ビールは、古代バビロニアではシカリと呼ばれていたと云います。このシカリがヘブライ語のシェケール(濃い酒)となり、ギリシャ語のシケラ(甘い酒)となったのです。また、ケルト人が飲むビールはセルボワーズと呼ばれていました。これはラテン語のケルウィシア(ケレスのウィシア、生命力)に由来するといいます。ケルト人は自分たちの言葉で、アルーとかエウルと云っていたようです。これはエール同様「植物のしぼり汁」の意味だそうです。
 ロシア語ではビールのことをピーヴォといいます。「飲む」のピート、「酒類、飲料」のピートョの古語、ピーヴァトに関係があるようです。
 現在、ビールの語源としてはゲルマン語のベオレ(ベオル)が有力な説です。これは、穀物、また穀物を醸造した飲み物という意味です。また一方で、ラテン語の「ビベーレ」(飲む)が変化した、「ビベル」という説もあります。
 6世紀頃のフランスの修道院で、ホップを添加したビールをこのように呼んでいたようです。ホップを使わないビールは「エアル」と呼ばれ、後に「エール」となったという説もあります。


◇ビールの原料あれこれ
ビール純粋令に則れば、大麦・ホップ・水がビールの原料となります。小麦などもビール造りの原料となっていますが、まずはビールがビールたる所以はここにあり、と云えるのではないでしょうか。

○大麦(麦芽)
麦芽を得る大麦は、主として二条大麦(ビール大麦)が使われます。
二条大麦がビール醸造に使われるのは、次のような特徴を備えているからです。

1)穀粒の大きさや形状が均一で、また大粒であること。
2)穀皮が薄いこと。
3)デンプン含量が多く、タンパク含量が適正であること。
4)発芽力が均一で、しかも旺盛であること。
5)麦芽にした際の酵素力が強いこと。
6)麦芽の糖化が容易で、エキスの発酵性が良いこと。

ビール用の大麦は日本各地で栽培されていますが、大部分は各国からの輸入麦芽だそうです。  

○ホップ
ビール原料の中でも特色のあるホップ。ホップは多年生で雌雄異株のつる性植物です。
ビールの醸造には雌株につく受精していない毬花を8〜9月に収穫して使います。
そのホップが持つ大切な役割とは・・・。

1)ビールに独特な芳香と爽快な苦味を与える。
2)麦汁の過剰なタンパク質を沈殿、分離させて、澄んだビールにする。
3)雑菌の繁殖を抑え、ビールの腐敗を防ぐ。
4)ビールの泡もちを良くする。

などがあります。
この作用はホップの有効成分であるルプリン(黄色い樹脂の粒)の働きによります。
ホップの生産地は緯度35〜55度の間に位置しており、
日本では東北地方など気候が冷涼な地域で栽培されていますが、
ビール醸造に使用するホップの多くはドイツやチェコなど海外からの輸入ホップです。

○水
醸造用の水はビールの品質に大きな影響を与えます。
それだけに適した水質の水が得られることが、醸造所の立地を決める重要な条件ともなります。
水質条件は厳しく、成分だけでなく無色透明、無味無臭で、生物的な汚染がないことも大切です。
一般的に、淡色ビール(いわゆる日本のビール)にはカルシウム、マグネシウムや炭酸塩などの
含有量が比較的少ない軟水が、濃色ビールには硬水が良いとされています。


◇ビールの近代化
近代以降のビールに大きな影響を与えたのは、細菌学者のパスツールだと云われています。
彼は生物の自然発生説を否定して、「生物は生物からのみ発生する」ことを実験によって証明したのです。その理論の延長から、ワインの再発酵を防止するために低温殺菌法を発明しています。この方法はパストリゼーションと呼ばれ、ビールもこの方法を採用することによって長期間、変質せずに貯蔵することが可能になったわけです。
また、ハンセンが酵母の純粋培養法を発明したのもパスツールの理論の応用と云えますし、消毒による衛生環境の改善なども、この殺菌という考え方から導かれたと云えるものです。細菌からビールを守り、安定した品質のまま長持ちさせることができる、これはパスツールのおかげですね。
さらにはビールの普及について、リンデの名前も忘れてはなりません。現在、多くのビールは下面発酵ビールというタイプですが、これは低温で、じっくりと時間をかけて発酵熟成させることが必要なのです。そこで、リンデが発明したアンモニア冷凍機こそが、四季を通しての醸造を可能にし、品質を向上させることに大きく貢献することになったのです。


◇ビールの醸造
ビールはワインや日本酒と同じ醸造酒です。その醸造には共通する部分も多くありますね。

・麦芽の製造
ビール大麦(二条大麦)を分解されやすい状態の麦芽にします。水分を含ませ発芽室で適度に発芽させたのち、熱乾燥します。このときにビールに必要な成分や独特の色、また芳香を持つようになります。

・糖化と仕込み
細かく砕いた麦芽と副原料や温水と混ぜ合わせます。適度な温度と一定の時間を保つと、麦芽の酵素の働きによってデンプン質は糖分に変わり、糖化液の状態になります。これを濾過してからホップを加えて煮沸します。ホップの役目は特有の苦味と香りをつけること、同時に麦汁中のタンパク質を凝固分離させて、麦汁を澄ませる働きもします。

・発酵
熱い麦汁を5℃くらいまで冷却し、酵母を加えて発酵タンクに入れます。7〜8日間で酵母の働きによって麦汁中の糖分がアルコールと炭酸ガスに分解されます。こうして出来上がったビールは若ビールと呼ばれ、ビールの味や香りはまだ充分ではありません。

・貯酒
若ビールは貯酒タンクに移され、0℃くらいの低温で数十日間貯蔵されます。この間にビールはゆっくりと熟成し、バランスのとれた味と香りを持っていきます。熟成の終わったビールは濾過されて、透きとおった琥珀色のビールが生まれます。

・瓶詰め

こうしてビールが誕生するまで約2〜3ヶ月。出来上がったビールは瓶や缶、また樽などに詰められて出荷されます。


◇ビールの種類・大別編

・上面発酵ビール
このビールはエールタイプと呼ばれ、ペールエール、スタウト、アルトビール、ケルシュ、ヴァイスビール(ヴァイツェン)などがあります。
サッカロマイセス・セレビシエという出芽酵母を用い、常温短時間で発酵を行います。酵母は盛んに炭酸ガスを出し、最後には上面に浮かび層を作るためにこう呼ばれます。複雑な味と香りを特徴としています。フルーティな香りもそのひとつですね。一般的には、上面発酵の方が比較的簡単に醸造できると云われます。
あまり冷さずに常温で飲む方が美味しいでしょう。

・下面発酵ビール
このタイプはラガータイプと呼ばれます。
サッカロマイセス・カールスベルゲンシスという酵母を用いて、低温で長時間発酵を行います。酵母は下層に沈み込むためこう呼ばれています。スッキリした味が特徴で、苦味の利いたピルスナーなどがあります。ピルスナーは、チェコのピルゼンで醸造されたビールの呼称に由来します。この製法は大量生産に向き、日本をはじめ世界の大ビールメーカーの主流となっています。
 キリッと冷して美味しいタイプのビールです。

・ビールの色
使用する麦芽のタイプなどで、ビールの色に違いが生まれます。
普通の麦芽を使ったビールは淡色ビール、ローストしたカラメル麦芽などの濃色麦芽を使ったビールは濃色ビール、その中間の色をしたウイーン麦芽などを使った中間色ビールもあります。


◇ビールの種類・細分編

<上面発酵ビール>

・エール(イギリス)
 イギリスの代表的なビール。下面発酵のビアよりも苦くコクもあります。ダークエール(黒色・焙煎麦芽使用)、アンバーエール(琥珀色・焙煎麦芽使用)、ペールエール(淡色)などがあります。

・ビターエール(イギリス)
 イギリスの国民的飲料とも云われます。特徴のある銅色の樽生ビール。炭酸が少なくホップの苦味の強いエールで、常温で飲むビールです。

・ポーター(イギリス)
 黒色の麦芽を使いますがローストはしていません。ロンドンが本場です。

・スタウト(イギリス)
 「強い (stout) 」という意味のビール。強く焦がした麦芽を使用し、苦味が強くアルコール度数も高いタイプです。アイルランドのギネスが有名です。

・ヴァイツェン(ドイツ)
 バイエルン地方の小麦麦芽ビール。フルーティな香りとキレのある味わい。炭酸が強く清涼感のあるビール。レモンの薄切りを添えて飲むこともあるビールです。

・ケルシュ(ドイツ)
 ケルン地方で造られる淡い黄金色のビール。炭酸が弱く泡立ちも少ないビールです。

・ベルリナーワイスビール(ドイツ)
 ベルリンで造られる、酵母で白く濁ったビール。フルーツシロップを入れて飲むことも。

・アルト(ドイツ)
 デュッセルドルフやミュンスターで造られています。古来の製法によることから、アルト(オールド)を意味するビール。苦味が強く、イギリスのエールに似ています。


<下面発酵ビール>

・ピルスナー(チェコ)
 チェコのピルゼン地方のビール。まろやかな味とホップの爽快な香り、キメの細かい泡が特徴の淡色ビールの代表格です。

・アメリカンラガー(アメリカ)
 アメリカの一般的なビール。軽く苦味とコクが少なく、炭酸は強め。コーンや米などの副材料によるスッキリした味わいです。

・ドルトムンダー(ドイツ)
 ドルトムント地方のビール。ピルスナーより淡色で苦味も弱いタイプです。

・メルツェン(ドイツ)
 琥珀色でアルコール度数は高め。麦芽の味わいが豊かなビールです。3月(メルツェン)に仕込むのでこう呼ばれます。

・デュンケル(ドイツ)
 「ダーク」という意味のビール。ミュンへナーの部類に入り、19世紀後半にミュンヘンで発達した濃色ビールです。麦芽の香りが強く、苦味は少ないタイプ。ミュンヘン麦芽と色麦芽を使用します。

・ボック(ドイツ)
 北ドイツのアインベックで誕生したビールでアルコール度数が高いものです。ドッペルボック(2倍のボック)という、かなり濃厚なビールもあります。

・ウインナービール(オーストリア)
 ウィーンのビールで黄金から淡褐色。ミュンヘンビールより甘味とコクは少なめです。


<自然発酵ビール>

・ランビック(ベルギー)
 木樽の中で2年近く発酵、熟成をさせるもので、酸味が強くあります。新酒古酒のランビックをブレンドして、瓶内で更に発酵と熟成をさせる「グーズ」や、ランビックにさくらんぼを入れて発酵、熟成させた「クリーク」などもあります。


◇各国ビールのあれこれ

さすがに世界にはたくさんのビールがあります。
名称だけの羅列ですが、お好みを見つけるご参考に。

○オランダ
・グロールシュ
・ハイネケン

○スペイン
・クルスカンポ
・マオープレミアムレッド

○デンマーク
・カールスバーグ
・ツボルグ

○ドイツ
・ベックス
・ピットブルガー
・レーベンブロイ
・ホルステンプレミアム
・エンゲルボック
・ヴァルシュタイナー

○フランス
・ヒナノビール
・クローネンブルグ
・フィッシャートラディション
・キングストン
・モンブラン

○イギリス
・ギネス
・バスペールエール
・サミュエルスミス
・ジンジャービアー
・トラクエアハウス

○イタリア
・モレッティ
・ペローニナストロアズーロ
・ドレハー
・スプリューゲン
・メッシーナ

○チェコ
・ピルスナー

○オーストリア
・カイザー
・サミクラウス

○ギリシャ
・ミソス

○オーストラリア
・フォスターズラガービール
・ヴィクトリアビター
・カールトンクラウンラガー

○ベルギー
・ヒューガルデン
・シメイ
・オルヴァル
・レフ
・ギロチンビール
・デリリュウムビール
・セントセバスチャンダークビール
・サタン
・ウェストマール
・ブーン
・ブロンシュゾネル
・ティママン
・ローデンバッハグランクリュ
・フローレフ
・ベルビュークリーク ビール
・セントルイス

○アメリカ
・サミュエルアダムス
・ミラー
・クアーズ
・コナ
・バドワイザー

○カナダ
・ラバットブルービール
・ムースヘッドビール

○ジャマイカ
・レッドストライプビール

○メキシコ
・ネグラモデロビール
・ソルビール
・テカテ
・コロナビール

○中国
・チンタオビール
・台湾ビール

○フィリピン
・サンミゲール

○ベトナム
・333ビール
・サイゴンビール

○インド
・キングフィッシャービール
・マハラジャビール

○シンガポール
・タイガービール

○タイ
・チャンビール
・シンハー
・プーケットラガー



















◇ビアホールでビール雑談

・世界一アルコール度数の高いビール
 スイスの「サミクラウス」(サンタクロース)というビールはアルコール度数が14度。
 「世界で一番アルコール度数が高いビール」としてギネスブックにも記載されています。

・ビールは太る?
 ビールは好きなんだけど太るから、という声をよく聞きます。
 実はこれ、ビールのせいだけではないのです。ビールには食欲を増進させる働きがあり、ついつい料理に手がのびて、食べ過ぎてしまうからなのです。ちなみにビール500mlで、ご飯1杯強のカロリーだそうです。

・日本人が初めてビールをつくったのは?
 1853年(嘉永6年)頃、摂州三田(兵庫県)の蘭医・川本幸民が蘭書に基づいて、江戸の自宅の庭に炉を築いてビールを試醸したそうです。これが日本で最初につくられたビールと云えるものでしょう。

・温めて飲むビール
 ドイツでは古くから、飲む直前にビールを温める用具があります。
 ビールヴェルマーといい、小型の管の中に湯を入れたもの、またはヒーター式となっていて、ジョッキの中に入れて加熱するものもあります。日本ではあまり飲む機会がありませんね。




※次回は「リキュールの秘密」です。飲む宝石、リキュールの華を一献。
     
     

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